Leeの特別支援教育

コンピュータで作る生徒新聞とホームページ
国語学習における総合化の試みー
                              
1 はじめに
 
 知的障害養護学校教育におけるコンピュータの活用については、新学習指導要領の中で次のように述べられている。「各教科、科目等の指導に当たっては、生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できるようにするための学習活動の充実に努める・・・」。すなわちコンピュータの活用は、単に情報の時間だけでなく他の学習にも取り入れることが望まれている。本研究は、国語の授業にコンピュータを活用することにより、生徒の文章力、自己表現力を育成することをねらいとする。
 知的障害のある生徒たちの中には、字を書くことに苦手意識を持つ者もおり、今まで文章による自己表現活動はあまり活発とは言えなかった。しかし、ワープロあるいはコンピュータで入力した文字がきれいな活字になり、ひらがなで入力した文が漢字混じりの文に変換されることで、生徒は文章を作成する意欲を増すのではないかと考える。また、文章を編集して新聞やホームページ作りに発展させることで、自分の気持ちや考えなどを人々に知ってもらいたいという自己表現力をさらに高めるのではないかと考え、本実践を行う。
 総合的学習のねらいの一つに、「自ら学び、考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる」ということが挙げられている。本実践は、知的障害のある生徒の国語学習に、コンピュータ等の情報機器を適切に取り入れることにより、障害をカバーしながら表現する方法を獲得させ、「情報の報告や発表の仕方等を身につける」ことができるようにしようとするものである。これは総合的学習のねらいにも即していると考える。
 
2 研究の課題
 
課題1  ワープロソフト「一太郎」の操作を習得し、文字を入力する技能の向上を図る。
課題2 漢字やカタカナ、句読点などを正しく使用する能力や、自分の気持ちや考え、経験したことなどを文章に表す表現力を養う。
課題3 入力した作文や写真等を編集して、生徒新聞やホームページを製作し、多くの人に読んでもらうことで、自己表現の楽しさを味わえるようにする。
 
3 指導計画
 
1)生徒の実態
 本授業の学習グループは1年生1名、2年生4名、3年生4名、計9名(男子7名、女子2名)で構成されている。その実態は、大きく次のようになる。
○障害の程度が中度あるいは軽度の生徒達である。
○全員、漢字を交えた文章を書くことができる。漢字の使用については、小学校低学年段階の 漢字を使用できる生徒から、高学年段階の漢字を使用できる生徒まで、多岐にわたる。   ○コンピュータ使用に関する実態は、中学校時代から使用していた生徒、高等部で使い始めた 生徒と様々である。今までに何らかの経験はあるが、入力の技術等には幅がある。
 
2)指導計画
 平成11年度から、国語・数学の時間のコンピュータ室の使用が割り振られたが、4班は1学期に使用することになった。表1のように指導計画を立てた。
 
表1 指導計画
時間    題材名  (記事の主な内容)  ふようハイスクールニュース ホームページ
4月  2 漢字を学ぼう    
5月
6月

7月

 

 
 11


 
パソコンで作文を入力
1号 校内実習特集
2号 運動会特集
3号 選択学習特集
4号 班別作業特集
5号 私の趣味特集



3号
4号
5号
・新学期をむかえて ・校内合宿 ・運動会
・学園のこと・選択学習 ・教育実習の先生
・班別作業学習 ・映画「学校U」を観て・だじゃれ ・私の趣味(学部全員)他
*保護者にアンケート実施
8月       夏 季 休 業   1、2号
9月〜
12 
 

 
 
9月は2,3年生の現場実習期間で、1年生中心で編集 *生徒にアンケートを実施
6号
7号
8号

6号
7号
8号
・現場実習、校内実習 ・すずかけ祭
・私の夢 ・私の家族
1月〜
3月


 
・お別れ発表会 ・マラソン大会 ・卒業・3年生との思い出      9号
10号
 
 
*国語の時間の感想
  (授業時間は25分で0.5時間とする) 2,3学期は数学の学習を組み入れる。
 
4 指導の実際
 
 各課題について、次のように指導をした。
課題1  ワープロソフト「一太郎」の操作を習得し、文字を入力する技能の向上を図る。
○起動や保存のしやすさ、また編集のしやすさを考えて、フロッピーディスクを使用した。ワープロ操作については経験があるので、速さの違いはあるが、意欲的に作文を入力し始めた。
○入力についてはかな入力、ローマ字入力のどちらでもいいと考えるが、生徒は全員かな入力である。キーの打ち方については最初に操作方法を示したが、その後は各生徒の自主的な取り組みを尊重した。自分なりの操作方法ではあるが、回数を重ねるたびに速度が速くなった。
課題2 漢字やカタカナ、句読点などを正しく使用する能力や、自分の気持ちや考え、経験したことなどを文章に表す表現力を養う。
○文章化については本人の気持ちを大切にした。なにを書くかでつまずいていたら、指導者が 質問することで書きたいことを意識させた。作文のテーマについては、指導者が勧めたテーマの他に、「学園のこと」「だじゃれ」「映画を見た感想」等と、広がりが出てきた。
○漢字変換については、全員に「打ち終わったら、漢字にできるところがないか確認しなさい」 と説明し、その後は生徒の自主性を尊重した。段落、句読点等の使い方については、生徒の到達段階を見ながら必要に応じて指導した。
課題3 入力した作文や写真等を編集して、生徒新聞やホームページを製作し、多くの人に読んでもらうことで、自己表現の楽しさを味わえるようにする。
○文章の発表の場として、友達や保護者に読んでもらうために、新聞という形を取ることを提 案したところ、生徒達も意欲をみせ積極的に作文を入力するようになった。教師主導で編集して生徒新聞「ハイスクールニュース」第1号を作った。カラー印刷を見て「わー、きれい!」 と喜んだ。自分の文章が紙面に載った時から、非常に意欲的に作文を入力し始めた。
○ホームページは教師が製作しアップロードした。初めて画面を見た時は非常に喜び、次の動機付けになった。ホームページには、見る楽しみを増すために動画や音楽を入れた。また、文章を読む生徒の声を張り付け、画面上で音声も楽しめるようにした。
○できるだけ自分たちの手で新聞を作るという意欲と自信を持たせるために、編集長の竹川君が配布等の仕事を、コンピュータ操作に慣れた君原君が写真の挿入等の一部を担当した。
○この学習活動に対する保護者へのアンケートの回答の一部に、紙面に登場しない生徒への配慮を要望したものがあったので、できるだけ多くの生徒についての記事を心がけた。
○ホームページでの写真掲載や名前使用については、プライバシーの観点から配慮をした。
 
5 指導結果および考察
 
1)指導結果
 (1)生徒の作文入力の結果より
 ワープロソフトを使うことで、生徒の作文に漢字の使用が増えた。また、句読点などにも配慮が見られるようになった。表2は田口君の作文であるが、手書きではひらがなであった網掛けの部分が、コンピュータで入力した文章では漢字になった。  
 表2 田口君の手書きの文章と、コンピュータで入力した文章(平成11年10月)
Y運輸のこと
 ぼくはY運輸に行ました。毎朝ちょうれいがありました。ほうそうであつまってからY体そうをしました。午前中は、にもつをベルト・コンベアーにのせました。おもいにもつもあました。おわってかられいとう室にはいって、青いカウンターでれいとうにもつかずをはかっていきました。さいしょさむかったです。そしてれいとう室をでたらめがねがくもってきました。さいしょしごとはきつかったけどがんばりました。とてもしごとはきつかったです。しょくばの人はしんせつでやさしかったです。しゅうしょくはまだわかりません。
   
 (2)生徒へのアンケートより
 表3に、「ハイスクールニュース」についての生徒へのアンケート結果の一例を示す。
 
表3 生徒へのアンケート結果の一例(平成11年10月実施)
1 あなたは国語の時間にパソコンで作文を打つのはすきですか。
 はい 9      いいえ 0     わからない 0
 
(すきな理由)
 パソコンを打つのがじょうずになったから 1、 漢字などがすぐわかるから   9
 パソコンで打つときれいにみえるから  3、 パソコンは時代のはやりだから 0

2 作文がハイスクールニュースという新聞にのるのは、すきですか。  はい 6     いいえ 2     わからない 1
 (すきな理由) 
  ・ほかの人に見てもらえるから      ・作文を打つのがいいから
  ・ハイスクールニュースがたのしいです  ・みんなに見せられるから

3 作文がホームページにのるのは、すきですか。
   はい 8    いいえ 0     わからない 1
 (すきな理由)
  ・世界の国から見れるから   ・うれしいきもちです。
  ・自分の作ったのがホームページで見れるからいい。

4  国語の時間に生徒新聞やホームページ作りをした感想を聞かせて下さい。
  ・きれいな、パソコンでまた作文を書きたい。
  ・ぼくはパソコンを使って文集をつくれたからよかったです。
  ・自分で作っていたのがうれしかったです・他の人にも見てもらいたいから。
  ・パソコンで自分の作文を打つのは楽しい。自分の気持ちが文章になるから。
 
 このアンケートの結果から次のようにまとめられた。
 ○生徒は全員コンピュータで作文を入力することが好きである。また、新聞やホームページの形で自分の文章をみんなに見てもらえることに喜びを感じている。
 ○コンピュータを入力するのが好きな理由として、漢字変換が容易にできることが1番多く、次にきれいに見えることとなっている。
                       
(3)保護者へのアンケートより
  表4に、保護者へのハイスクールニュースについてのアンケート結果の一例を示す。                             
表4 保護者へのアンケート結果の一例(平成11年7月実施)
・ハイスクールニュースを発行したが     よい 15 ・どちらでもよい 4 ・いらない
・内容は今のままで         よい 11      ・改善したがよい 3 ・わからない 3
・パソコンを使った学習は     いいことだ 18 ・必要ない 0     ・わからない 0

<感想>
ハイスクールニュース発行に好意的な意見が多かった。その一部をあげる。
○子供達のありのままの姿や、すなおな気持ちが表れていて、子供達の体温が伝わってるような「ハイスクールニュース」だなあと毎回楽しみにしています。このニュースがきっかけとなり子供達との話題が広がり、そのことでさらに文章を書くことや、パソコンさわることに興味をもってくれたらいいなあと思っています。

○生徒達がパソコンを自由自在に使っている姿に先日は驚かされると同時に、私自身もとても考えさせられることがありました。もうすでにインターネットの時代と言われてますし、私のできないことを子供達が楽しんでやれることのすばらしさを感じました。その中から、 パソコンを使っての自己表現ができるように発展させている点もすごいと感じます
 
(4)生徒の観察による変化より
 時間割上は国語・数学の前は体育であるが、運動の後すぐに汗を拭きながら、休み時間から来て打つようになった。また終了時間まぎわまで打っている。参観者や教育実習生がきた時には、得意そうにハイスクールニュースのホームページを紹介し、説明をしている。また、国語・数学4班以外の生徒もホームページをよく観ている。
 
2)考察
 (1)課題1についての考察
 コンピュータの起動と終了、フロッピーディスクの使用等は、学習を重ねることで、予想したより早く自分達で行うことができるようになった。文字入力については細かなルールにはこだわらず、新聞に自分の作文を載せたいという意欲を喚起するようにした。回数を重ねるごとに入力が速くできるようになった。 
 (2)課題2についての考察
 作文のテーマや内容に変化が見られるようになった。学校でのできごとの他に、自分の気持ちや家族、夢などと、広がりがでてきた。また、記述がより詳しくなった。
 アンケート結果では、コンピュータで文を入力するのが好きな理由として、「漢字変換が容易にできることがうれしい」という答えが多かった。生徒は漢字を書けなくても読める漢字は多く、ワープロで漢字に変換でき、きれいに打てることに満足感を感じると思われる。そのことが、自分の気持ちや考えを述べるという自己表現力の向上につながっていくと思われる。
 (3)課題3についての考察
 文字の飾りやイラスト、写真の挿入等については、一部の生徒にやり方を指導したものの、新聞やホームページ作りは、時間の関係から教師主導で行った。しかし、自分の文章が、写真や声を交えて紙面やホームページ上に載り、いつまでもきれいな形で人に見てもらえることで、楽しさや満足感、達成感を得ることができた。
 
6 まとめと今後の課題
 
 本研究では総合的な学習を志向して、国語にコンピュータを取り入れた授業を試みた。コンピュータのワープロソフトを使って文章を入力し、それを新聞やホームページの形で示すことにより多くの人に見てもらう。このことで生徒は意欲的、主体的に文章を入力するようになり、漢字等の国語力、コンピュータの入力技術等に向上が見られた。また、新聞やホームページを見てもらうことで満足感や自信を持ち、それを人に紹介したりすることでコミュニケーションの能力も育っている。これはこれからの情報化社会を生きる力につながっていくと考える。
 今後の課題として、自分の考えに加え、学校生活のことや友達のことも含めて伝える文章力を育てたい。次に、生徒達ができる限り自分達の力で編集する力をつけることが挙げられる。時間の制約はあるが、コンピュータ操作能力の向上で可能になると考える。
 今後も、コンピュータ等の情報機器を取り入れながら、生徒が主体的に自己の表現、発信ができるように、総合的な学習のねらいをふまえながら実践をさらに発展していきたい。
 
<参考文献>
1)岩波講座 現代の教育 第8巻(1998):情報とメディア、岩波書店
2)深田昭三他編(1998):教室がインターネットにつながる日、北大路書房
3)大蔵省印刷局(1999):盲学校、聾学校及び養護学校教育要領・学習指導要領