Leeの特別支援教育

自作インターネット上教材による国語・数学教育
ー中学部の生徒の事例を通してー


1 はじめに

 コンピュータを活用した教育については、各教科の授業を、コンピュータやインターネットを「道具」として活用することにより、すべての子どもたちにとって、「分かりやすい」ものにすることが望まれている。(注1)
 知的障害児教育においても、これからの情報化社会に向け、情報機器を道具として活用しながら,各教科,特に国語・数学の力を育成することが必要であると考える。
 本実践の対象生徒は、中度から軽度の知的障害を有している。比較的国語・数学を得意とする生徒であるが、実生活の中で十分に国語・数学の力を発揮するには課題も多い。また、この学習グループの生徒には個人差があり、一斉授業では個別の力を伸ばすことが不十分な場合がある。
 そこで、国語・数学の学習内容をインターネット上の教材として作成すれば、個に応じた学習ができると考え、インターネット教材を開発作成することにした。
インターネット上の教材には、次のような効果が期待できる。
○共有化・・・・インターネット上に、生徒たちにとって必要と思われる国語・数学の教材を置くことで、誰でも、手軽に、どこででも学習できる環境を整えられる。
○個別化・・・・それぞれの生徒が、インターネット上の教材の中から、自分に合った内容を選び、主体的に学習でき、力をつけることが可能になる。
○反応がある(インタラクティブ)・・・・クイズ形式や2択・3択問題・書き込み問題は反応があり、クリックすることで解答や点数が得られるので、意欲を持って取り組むことができる。また、繰り返し行うことができるので学習効果が上がる。
 次に、ワープロソフトを使用して作文することで、進んで自分の気持ちを表現する力をつけられると考え、ワープロソフトを使った作文を取り上げた。その効果としては、ワープロソフトで入力した作文をホームページとして公開することで、多くの人に見てもらえ、反響があることから、作文での自己表現に意欲的となることが考えられる。
 本実践報告は国語に主眼を置き、○○さんの事例を挙げながら、知的障害児に対する、コンピュータを活用した教科指導のあり方を検証するものである。

写真1 ネット上の教材「Leeのきょうざいかん」

2 研究の課題

課題1 インターネット上の自作教材を開発し、一人一人の生徒への活用を図り、国語・数学の力を育成する。
課題2 ワープロソフトを使って作文を入力し、ホームページにすることで、表現力を高め、国語の力を伸ばす。


3 研究の方法
 
1)対象生徒:中学部国語・数学4グループ ○○さん 学年:中学部○年生 
2)対象生徒の国語に関する実態
 ○さんの国語に関する実態は表1の通りである。・・・省略            

3)研究期間 平成12年4月〜平成13年10月
4)指導計画
 平成12年度から対象生徒に国語を指導したが、表2のように指導計画を立てた。

表2 国語の指導計画
年度 学期 実施回数 学習内容
平成
12年度
1学期

3学期
約25時間 ・インターネット教材でひらがな、カタカナ、漢字を学習する。
・プリント教材で学習する。
・ワープロソフトで作文を入力する。
・夏休みにはプリント教材を宿題とする。
・生徒の作文や画像を入れて、ホームページを作成する。(3名分)
・生徒の作文を文集にする。
平成
13年度
1学期 8時間
・インターネット教材でひらがな、カタカナ、漢字、文章を学習する。
・ワープロソフトで作文を入力する。
夏休み ・プリント教材を宿題とする。
2学期
(10月まで)
6時間
・インターネット教材でカタカナ、漢字、文章を学習する。
・ワープロソフトで作文を入力する。
計 39時間    *1単位時間は50分

4 研究の実際

1)各課題の実践

課題1 インターネット上の自作教材を開発し、一人一人の生徒への活用を図り、国語・数学の力を育成する。
 インターネット教材「Leeのきょうざいかん」について、期待される効果と工夫した点、および内容と種類を述べる。ここでは国語を中心に説明する。

(1)期待される効果
・各生徒が自分に合った学習内容や種類を選び、主体的に学習できる。
・カラフルで動きのある画像や、音声、音楽を、楽しみながら学習することができる。
・クイズ形式や2択・3択問題・書き込み問題は、クリックすることで解答や点数が得られ、意欲を持って取り組むことができる。また、繰り返し行うことができるので学習効果が上がる。

(2)工夫した点
・生徒の興味を引きそうな題材や素材、構成を工夫した。
・生徒の興味を引きそうな画像や音楽を集めてページを作成した。
・フラッシュカードの効果や、2択・3択・書き込み問題やクイズの形式を採った。

(3)インターネット上の国語教材の内容と種類
 インターネット上の国語教材の内容と種類は表3、表4のようになる。

表3 インターネット上の国語教材の内容
内容
ひらがな・50音 ひらがな・50音 (音声つき)
ひらがな くだもの、色、顔の部位、さかな、動き、スポーツ、促音
カタカナ・50音 カタカナ・50音(音声つき)
カタカナ 動物、恐竜、料理、花
漢字 小1・小2の漢字 学校生活 熊本の名所、熊本市内のよく行く場所、スーパーマーケット、洋食・和食
文章 動作、助詞、敬語、社会人のことばづかい
ひらがな、カタカナ、漢字 おかし、昆虫、将来の夢、スポーツ、交通標識 、県名 、国名、クロスワードパズル
表4 インターネット上の国語教材の種類
種類 ポイントしておぼえる教材
(フラッシュカード)
文字や名称を知る。
2択・3択・書き込み問題やクイズ 問題やクイズにより、確認し,自己評価し,新たに覚える。
プリント教材 プリントアウトして、文字を書いたり,問題を解いたりすることで,定着を図る。

課題2 ワープロソフトを使って作文を入力し、ホームページにすることで、表現力を高め、国語の力を伸ばす。
 ワープロソフトを使っての作文入力について期待される効果と工夫した点を述べる。
(1)期待される効果
 コンピュータのワープロソフトを使うと、文字がきれいに見え、漢字変換ができるので、生徒は入力に積極的になる。生徒は作文の入力により、文字入力の技術を習得し、国語の力が向上する。同時に、自分の気持ちを積極的に表現するようになる。
(2)工夫した点
 ワープロソフトでの作文入力では、行事の写真や画像を挿入したりして、生徒がより具体的に、のびのびと文章を入力できるようにした。また、作文をホームページや文集にすることで、意欲を喚起し、充実感を持つようにした。

写真2 ○○さんのホームページ


2)授業の展開
生徒の実態および特性を考慮し、指導方法を工夫し、教材を作成しながら、次のように授業を展開した。
(1)日時および場所  平成13年9月21日(金) 1:20〜2:10 合同学習室
(2)展開 表5のように授業を展開した。

表5 授業の展開例「 けいごはつかえる?」
学習活動 学習する言葉
1 挨拶をする。
2 「読んでおぼえる」で言葉を読む。
3 プリント教材で字を書く。
4 書き込みテストをする。得点を報告する。
5 パソコンのワープロソフトで作文を入力する。
6 プリントを宿題とする。
7 終わりの挨拶をする。
おはようございます。
トイレにいっていいですか?
ごめんなさい、まちがいました。
ははがつくりました
わたしはわかりません。
ほんをとってください。他
写真3 書き込みテスト「けいごはつかえる?」

5 研究結果および考察

1)研究結果
1 インターネット上の教材には興味を示した。3択問題などは意欲的に取り組んだ。点数が出るので, 高得点を取ったときにはうれしそうに報告した。一方、問題が難しいと意欲が減退する傾向が見られた。○○さんのクイズ教材での得点の変化は表6のようになるが、回数を重ねるたびに成績が向上した。

表6 ○○さんのクイズ教材での得点の変化
教材の題材 学習内容 得点の変化(100点満点)
3択「わたしのかだん」 カタカナ 60→50→80→100
3択「くまもとのめいしょ」 漢字 50→100
3択「小学1年の漢字1」 漢字 150→140
3択「おかしだいすき」 ひらがな,カタカナ 100
3択「熊本の名所」 漢字 80→90→100
書き込みテスト「敬語は使える?」 文章・敬語 9/21 86→98→98 10/2 98

2 ワープロでの作文では,「行事の感想」の他に,自分から「教生の先生への手紙」「行事の案内」「旅行のこと」などを書いた。
3 新聞や雑誌から、好きなタレントの名前や歌詞や記事をメモにしてきて,それを入力した。これはカタカナの学習に役にたった。また、漢字、アルファベットにも関心を示すようになった。
4 帰りの会の発表では,「明日は国語・数学を頑張ります」 と言うことが多かった。
5 ○○さんは学級でも「クラス便り」を自分で作る意欲を見せ、画像を入力したり、文章を入力したりした。また、自主的にプリントを書いてきたり、夏休みの宿題や日記やメモも自分から書いてくるようになった。
6 保護者の授業を見た後の感想や、連絡帳での感想は次の通りである。

写真4 ○○さんが書いた夏休みの宿題
○○さんの保護者の感想より
・昨夜は勉強、勉強といってプリントを何枚もやっていました。時計は何分のところをひとつひとつ数え  ながらやっていました。おどろきました。(連絡帳より)
・国語・数学のコンピュータは、自分の好きなページを出せることが楽しいらしくて、このコンピュータの 授業でずいぶん字を覚えたと思います。(授業参観の感想より)

2)考察

課題1 インターネット上の自作教材を開発し、一人一人の生徒への活用を図り、国語・数学の力を育成する。
 ○○さんは非常に意欲的にインターネット上の教材で学ぶことができた。そして、クイズ教材での得点の変化にも表れているように、国語・数学の力をつけることができた。その理由としては、インターネット上の教材に興味を引く音楽、画像や動きがあることや、クイズ問題に反応があり点数が表示されることが考えられる。また、自分に合ったレベルの問題を選び、主体的、意欲的に学習ができることや、繰り返し学習できることも、学習効果を上げる要因と考える。

課題2 ワープロソフトを使って作文を入力し、ホームページにすることで、表現力を高め、国語の力を伸ばす。
1 カタカナや漢字の読み書きが苦手な生徒でも、文章を書いて自分を表現することに非常に意欲的 になった。これはワープロソフトを使うことにより、字がきれいに出て、漢字に容易に変換できるためと考える。さらに、インターネットや雑誌、新聞の文章を入力したがり、そのことは、カタカナや漢字を学びたいという動機づけとなった。「自分の好きな文章を書きたい。言葉を知りたい」という強い動機がある時には、熱心に学ぶことができると考えられる。
2 作文を載せたホームページができると、自分で見たり、人に見せて説明したりしていた。自分が入力した文章がホームページになることで、自己表現への意欲が高まっていくと考えられる。

6 まとめと今後の課題

 本研究では、インターネット上の自作教材の利用と、ワープロソフトを使った作文という2つの方法で、コンピュータ、インターネットを活用した国語・数学の指導を試みた。
 インターネット上の自作教材を使った学習では、生徒達は集中してクイズやテスト問題に取り組み、国語・数学の力をつけることができた。また、自分に合ったレベルの問題をすることができるので、主体的、意欲的に学習ができた。これは、個別化の効果と言える。 
 ワープロソフトを使った作文では、生徒は意欲的に作文に取り組んだ。作文をホームページに載せたことで、生徒達は自己表現することの充実感を持てた。
 また、学習グループの生徒の一人は、家庭のパソコンで「Leeのきょうざいかん」にアクセスしたり、友達にメールを出したりしている。コンピュータ、インターネットの活用は、家庭生活にも拡大していると言える。さらに、「Leeのきょうざいかん」には多くの人がアクセスし、掲示板やメールを通して、「クイズをしました」という声が多く寄せられる。これは共有化の効果であろう。
 今後の課題としてインターネット上の教材の充実が挙げられる。子どもたちの実態はさまざまであり、国語・数学の学習においても細かなステップが必要となる。さらに教材を増やしていき、種々の段階の生徒に応じた教材を作成していきたい。
 
<インターネット上の教材のURL>
「Leeのきょうざいかん」http://www.geocities.jp/leeobasan/index.html