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    リンリン こうちゃん     

その10

作・佐竹弘子  編集・Lee

こうちゃんはダウン症の明るい男の子。今日もやさしいこうちゃん、いたずらなこうちゃんが活躍します。さて、こうちゃんが好きな髪型は?

 
  
 皓平は優しい
 
 皓平のパパは、毎年この季節になると花粉症に悩まされる。
 くしゃみを連続でする。鼻をかみすぎ鼻の中の粘膜が破け鼻血まで出る。目のかゆみもひどく目薬も手放せない。そのための薬も服用しているが、梅雨が来るまでは元気が出ないらしい。
 今朝も「おはよう!」と起きて来た。そして、「クッシャン!」と大きなくしゃみをし、痰や鼻汁を撒き散らす。私と陽介は毎日のことなので、手馴れたもので被害を被らないようにさっと避難する。そして一言「汚いなぁ!」
 しかし、皓平は違う。「パパ、だいじょうぶ?」とティッシュを取りに行き渡す。そして背中をトントン。
 優しいねぇ。その様子を見て少しだけ反省する私・・・。

 お手伝い大好き!

 学童クラブから帰ってくると、台所に直行する皓平。そして家族7人分のお茶碗とお箸を並べる。
「おおた(ひいおばあちゃん)の、おじ(いちゃん)の、おば(あちゃん)の、パパの、ようすけの、ぼくの、ママの・・・」と話をしながら間違えずにきちんと並べる。
「あ、パパはお仕事で遅いから並べなくていいよ」と言っても、「だめ!」と言い、定位置にきちんと並べないと、気がすまない。

 そして最近、もう一つお気に入りのお手伝いが増えた。
 それはお茶碗にご飯を盛ること。皓平のお茶碗にご飯を盛る私に「おおもり〜」と毎日叫んでいた皓平。しかし、太り気味の皓平を気にして大盛りにしない私に業を煮やしたのだろう。それならば自分で大盛りによそっちゃおう!と考えたのか・・・

 さっさと、お茶碗を持ち「おおもり〜」と言い、本当にこぼれんばかりのご飯を盛る。しかもご丁寧に、自分の分だけではなく家族全員のご飯を盛ってくれる。というわけで佐竹家、家族全員健康で、大盛りご飯を食べている(笑)。

 お風呂で内緒話

 皓平は平日、おばあちゃんとお風呂に入ることが多い。陽介は一人で入ることが多い。たまたま久しぶりに、陽介と皓平と私の3人でお風呂に入った。 

皓平:「ママ、こうへい、8さい!」
母 :「そうだね、皓平は8才になったんだよね」
皓平:「ようすけは?」
陽介:「10才だよ」
皓平:「ママは?」
母 :「え?え?10才だよ」
陽介:「こうへい、耳かして!」とコチョコチョ内緒話を・・・
陽介:「こうへい、わかった?ママの年?」
皓平:「わかったよ!ママ、8才!」

 え????陽介!変なこと教えないでよ!陽介にも本当の年を教えていない私。
 さて、陽介は何才と教えたのでしょう・・・。本当に8才と教えたの?

 おしゃれな兄弟?!

 この春、小学5年生になる陽介はおしゃれにも興味が出てきた。風呂あがりには、気が向くとドライヤーで髪をセットする。どうもツンツンヘアーに憧れているようだ。
 ドライヤーを持ち出した陽介を見て、皓平はパパが使うブラシとムースを取り出した。そして「どうぞ!」と陽介に差し出す。
 「お、こうへい、気が利くじゃん!サンキュ!」と陽介。

 しばらくしても洗面所から出てこない皓平を見に行く。やってる、やってる。陽介の真似をしてドライヤーで髪の毛をセットしていた。
 皓平は陽介が大好きで陽介の真似をするのも大好き。悪いことも真似されるから、見本にならないとね、陽介!

 学童クラブで

 4月になり時間的に余裕のできた私は、皓平の通う、障害を持つ子のための学童クラブにボランティアで参加することにした。 私の本来の仕事はデスクワークなので、肉体労働である指導員が務まるかどうか不安だった。また、皓平とは違う障害を持つ子たちと、仲良く遊べるか自信もなかった。でも、学童クラブで見せる皓平の本当の姿を見ることも一つの目的だったので、はりきって参加した。

 まずはワゴン車に乗り込み、目的地まで移動する。すると後部座席に座っている男の子が私の髪の毛を引っ張る。
 聞くところによるとその男の子は女性のパーマヘアーが大好きで、見ると反射的に引っ張りたくなるらしい。噂では「美女好き?」で定評のある男の子。私は若づくりのため?いえいえ美貌のため?にくるくるパーマをかけたばかりだ。

 3回引っ張られたが、その後は危険を察知し逃げるのがうまくなった。その様子を見ていたまいちゃん(「その2」にも登場)。
「これ、かぶればいいよ!」とジャンパーのフードをかぶって見せる。
「そうか、まいちゃん、頭いいね!じゃ、やってみる」と真似をして私もジャンバーのフードをかぶった。これなら大丈夫。
 その隣では、トレーナーの襟をひっぱり帽子にしようとしている皓平。そうか、皓平はジャンバーを着ていないから、トレーナーを帽子代わりにしているんだ、考えたね。
 でも、大丈夫だよ。美女しか興味がない男の子なんだから?!

 そばをゲット!
 
 待ちに待ったお昼の時間。
 皓平の隣は指導員の小野君。小野君がコンビニで買って来たそばを取り出し食べようとする。
 不吉な予感・・・。皓平は細くて長い食べ物が大好きなのだ。ラーメン、うどん、そば、スパゲッティー、しらたき、もやし・・・?皓平がそばを見て我慢できるはずがない!

皓平:「そば、たべたい!」
小野君:「でも、わさび、たくさん、入れちゃったよ」
皓平:「いいよ、ちょうだい!」
小野君:「じゃ、そば少しあげるから、皓平のお弁当もちょうだい!」
皓平:「いいよ!」
 と言ったか言わぬまに、そばをパクパク!
小野君:「こうちゃん、ずるいよ。じゃ、こうちゃんのお弁当も少しちょうだい!」
皓平:「やだよ!あかんべー!」
小野君:「こうちゃん、さっきお弁当くれるって言うから、小野だっておそばあげたんだよ」
皓平:「やだ!あげない!」
 隙を見て、また、そばをパクパク!

 小野君、本当にごめんなさい。おなかがいっぱいになりましたか?
 皓平は食べるスピードは遅いけれど、残さずきれいに食べないと気がすまない子なんです。しかも、ほかの人にお弁当をあげることなんて、今の皓平には不可能な話なのです。
 でも、「自分のお弁当もあげるよ」と約束したのに、小野君のそばだけ食べるとは、ずるいよねぇ。こういう場合も、知能犯というのでしょうか?

2002年4月7日作成
「Leeの特別支援教育」