リンリン こうちゃん
その11
作・佐竹弘子 編集・Lee
ダウン症のこうちゃんはビデオ操作の達人!こうちゃんはまた、すばらしいミュージシャンなんですよ!
主人公・次男の皓平くん (こうちゃん) |
長男の陽介くん (よーすけくん) |
ママ | パパ |
「Leeの特別支援教育」
ビデオ操作の達人!
皓平は必ず土曜日には、お父さんとレンタルビデオやさんにビデオを借りに行く。
「どようび、びでおや、パパいく」が皓平の公式になっている。
その皓平。ビデオ屋さんに着くと、一目散に”ドラえもんコーナー”に行く。そして1本ずつビデオを手に取り、タイトルからビデオケースの裏のあらすじまで細かく見る。そしてドラえもんの中から借りるものを1本決める。
さあ、次は”クレヨンしんちゃんコーナー”だ。また、はじからはじまで1本ずつチェックする。そしてまた1本借りるものを決める。 毎回30分以上、ビデオの選択に悩むそうだ。あらすじを読んで、納得してから決めているようだ。
家に帰ると借りてきたビデオを見る。
皓平はビデオの操作もベテランだ。リモコンを使わない皓平は、直接自分で操作する。
まずはテレビの主電源をつける。テレビの下のふたをあけ、2チャンネルにする。ビデオの電源を入れる。巻き戻す。スタートする・・・・。一連のビデオの操作はばっちりだ。
数字も字も読んだり書いたりすることはまだできない皓平なのに、なぜできるのだろう?これも生活に密着した力だろうか・・・。
そして皓平はナルシストなのか?自分が映っているビデオを見ることも大好きだ。
文化祭のビデオを見れば一緒に踊る。踊りがうまくいかないときには、巻き戻し納得するまでビデオと一緒に踊る。
運動会のビデオを見れば「がんばれ〜!」と応援しながら見る。
そして巻き戻し、早送りをし、お気に入りのところを何度も繰り返し見ることも得意だ。その名場面を見せ、人に拍手を強要することも大得意だ!
しかし・・・。今のビデオは3台目。皓平はすでに過去に2台のビデオを壊し、ビデオの操作を習得している(笑)
おばちゃんの家に行くと・・・
私の実家は、隣の隣の市で、皓平の家からは車で30分の距離だ。私の母、皓平のおばあちゃんが一人で住んでいる。皓平の家は農村地区で近所には商店が一軒もない。しかし、おばあちゃんの家は商店街のど真ん中だ。皓平は興味深々だ。
そして一番のお気に入りは、おばちゃんの家の前がうどん屋さんであること。
うどんが大好きな皓平は、おばあちゃんの家に着くなり「うどん、たべたい。(注文に)いこう!」とおばあちゃんを誘う。
「まだ、お昼には早いよ。お昼になったら頼みに行こうね!」
「わかった」
そして数分すると・・・
「うどん、たべたい。いこう!」と誘う。
“おばあちゃんの家に行く=うどんを食べる”という公式がまたもや完成しているのだ。
また、おばあちゃんも甘い。
「じゃ、お昼には少し早いけど頼みに行こうか」
「いこう!とりうどん、たべる。おおもり、たべる!」
そしていそいそと二人で手をつなぎ注文に行く。
注文したうどんが届く。うれしそうに残さず食べる。おばあちゃんもうれしそうだ。
うどんを食べ終わると、
「ママ、おにかい。こうへい、おばばあや、グー!」
そうなのだ。お昼を食べ終わると私には「二階へ行け」と言う。そして皓平は一階でおばあちゃんと昼寝をすると言う。なんて親孝行、そして祖母孝行なのだろう・・・。
そして本当におばあちゃんと並んで昼寝をするのだ。お言葉に甘えて私は二階でゆっくりくつろぐ・・・。
昼寝が終わると・・・。皓平はおもむろに台所に行き冷蔵庫をチェックする。そして自分の好きな食べ物を勝手にバックに入れる。
「これ、たべる!これもたべる!」と・・・しっかりしているというか、欲が深いのか(笑)。一通り、お土産をもらうと(奪う?)と、
「おうち、帰る。バイバイ」と車に乗り込もうとする。
なんて、ちゃっかりなのでしょう。
そうしながらも一人暮らしのおばあちゃんは、皓平や陽介の好きな食べ物や洋服を買って待っていてくれる・・・。
「おおいずみさん、ピロピロ!」
皓平の学童クラブでは、縁があって世界の民族楽器を演奏されている音楽家の大泉彰由樹さんと知り合った。そしてアフリカの太鼓“ジャンベ”の指導を受けている。
大泉さんに教わりながら、親子でジャンベも作った。本来は木でくりぬきつくるのだが、アレンジして下水道の工事で使う塩ビ管を切り、ドリルで穴を開けイラストをつける。そして濡らした山羊の革を貼り、紐で編み、完成させた。
そして「健常児と手作りのジャンベを使って交流を深め、コンサートで発表する」という目的で、助成金を受けることもできた。 また、昨年は公立の中学校に交流に行き、一緒に演奏もしてきた。
月に3回、大泉さんの指導で楽しくジャンベをたたいている。大泉さんはいろいろな珍しい楽器をお持ちで演奏してくれる。その大泉さんの奏でるケーナに魅せられた皓平。 ある日「おおいずみさん、ピロピロ、やる!」と大泉さんのケーナを奪い?演奏した。すると見よう見まねであるが上手に指を動かし音が出た。それ以来「ピロピロ」にはまってしまった。今では大泉さんとコラボレーションをするほどのピロピロ友達だ。この「ピロピロ」は皓平が名づけた(笑)。
先日も、発表会があった。皓平は「ピロピロ」から「シャンシャン!(写真の振ると音が出る楽器で本来は”シェーカー”と言う)」「ジャンベ」と3つの楽器を演奏しながら、なぜかステージ所狭しと動きまくり、大成功の演奏会となった。
皓平や仲間達は言葉で自分の気持ちを表すことが難しい。しかし、言葉では上手に言えなくても楽器を使い、自分の気持ちを表現することができる。そしてその「音」で互いに気持ちが伝わりあい、周りの人も楽しくなれる。
快く指導を引き受けてくださり、そして楽しく一緒に演奏してくださる大泉さんに感謝し、このような機会にめぐり合えたことをうれしく思っている。
ケーナをふくこうちゃん。ノリノリですね♪
「おおたに、きんようび、リンリン いく!」
学童クラブでは、ベテランの大谷さんが子どもたちの保育スケジュールと指導員の体制を決めている。皓平は大谷さんがスケジュールを決めるのを知っている。だから大谷さんを説得しないと交通公園(皓平は“リンリン公園”と言う)に行けないことも知っている。皓平は交通公園に行き、自転車を乗り回すことを楽しみにしているのだ。
大谷さんの顔を見る度「おおたに、リンリンこうえん、いこう!」と誘っていた皓平。しかし、毎日しつこく誘う皓平に「今日、お金持ってないの。お金ないとリンリン公園に行けないよね。じゃ、今度お金持ってくるから金曜日に行こうね」と固い約束をしてくれた大谷さん。
いよいよ金曜日、学校に迎えに来てくれた大谷さんを見つけて、「おおたに、おかね、もってきた?」
大谷さんが「お金がないから行けない」と言ったのを覚えていたのだ。
皓平はテレビ番組や陽介の習い事のあるなしで曜日を理解しているのだ。その日は朝から「きんようび、リンリンいく、ドラえもん、しんちゃん、見る」と何度も言っていた。
皓平に根負けし「お金、持ってきたよ。リンリン公園行こうね!」と約束を守ってくれた大谷さん。この日から「金曜日、リンリン!」が学童クラブの定番スケジュールになった。
月曜日はプールの日と決まっていて、「げつようび、すいすい!」と楽しみしている。振り替え休日で学童クラブが休みの日でさえ、「プールに行く!」と騒ぐほどプールも大好きなのだ。
しかし、この4月から保育カリキュラムの変更で、皓平は金曜日にプールに行くことになった。
今まで「げつようび、すいすい」「きんようび、リンリン!」と決めていた皓平。気持ちの切り替えができるかどうか不安だった。
金曜日の朝「こうちゃん、今日、金曜日だけど、プールだよ」と言うと、「ゆもと、きんようび、すいすい」・・・。
4月から大谷さんは高等部を卒業したワークス(作業所)のメインの指導員になり、小・中学生の指導員のメインは“湯本さん”に変わった。皓平は、昨日湯本さんに「金曜日、プールだからね!」と言われ、覚えていたらしい。
「こうちゃん、今日、プールなのに”リンリン行こう”って言わないかな?プールにちゃんと入るかな・・・」と他の指導員も心配をしてくれた。
しかし、親や指導員の心配もよそに大はりきりで、その日は足がつかない水深140センチメートルの深い方のプールで泳ぎ楽しんだ。
頑固者の一面もあるが、好きなプールだからか、きちんと切り替えができるんだね。えらかったね!
そしてこの一件から湯本さんが保育カリキュラムとスケジュールを決めるということを学んだ皓平。
さて、また「ゆもと、リンリンいこう!おかね、もってる?」と湯本さんを説得にかかることだろう・・・。湯本さんはなんと答えるかなぁ・・・。交通公園は月曜日が定休なんだけど・・・。
2002年4月20日