リンリン こうちゃん
その14
作・佐竹弘子 編集・Lee
今回はこうちゃんのお母さんの子育てについての考えをのべました。これは健常の子どもにもあてはまることが多いですね。
文末の美術館もご覧下さい♪
おもな登場人物
主人公・次男の皓平くん (こうちゃん) |
長男の陽介くん (よーすけくん) |
ママ |
私は茨城県に住み、「茨城県ダウン症協会」という県内を一つにまとめている親の会に所属しています。その会が設立10周年迎え、総会と記念講演会を開催しました。
永年、ダウン症候群の研究をされてきた大学の先生の記念講演は大変勉強になりました。
今回は講演会で聞いた内容を基に、私なりの考えを書いてみたいと思います。
子どもの発達を信じ、利点を伸ばすサポートをしよう!
皓平の障害は“ダウン症候群”といい、いわゆる“知的障害”である。知的面、運動面のすべてにおいて劣っていると考えられがちだ。
しかし、皓平はビデオの操作を熟知している(詳しくは“その11”を読んでくださいね)。
また道路にも詳しく数回通れば道を完璧に覚える。うっかり寄り道をすると怒られてしまうほどだ。
そして、身近な人の車種を覚え、同じ車種の車とすれ違っただけで即座にわかるという特技も持っている。
車の運転の真似も大好きで、車庫にバックで入れる時には後ろを向きハンドルを回す真似をしながら「オーライ、オーライ。オッケー!」とナビゲーターもしてくれる。その時のハンドルの回し方は私のハンドルさばきと同じだ。
私は以前から「皓平って記憶力がいいなぁ」と思い感心していた。
これらのことは専門用語で言うと「空間的視覚」というそうだ。目で見たことを覚えてしまう特性のことだ。
皓平はただ単に目で見て覚えるだけではなく、耳で聴き、実際に触って、時にはにおいをかぐなど体のすべてを利用し体験したことをすぐに覚えてしまうようだ。
障害があるとどうしても「劣っている」というマイナス面だけに考えがいきがちだ。
しかし、皓平は明るく人懐こい素直な性格を持っている。そして一度見て体験して覚えたことは忘れないというすばらしい長所も持っている。
障害をマイナスと考えるのではなく、得意な面や優れている面をより伸ばすためにサポートしていきたい。
親の生きがい、子の生きがい
皆さんには生きがいがありますか?何を”生活の張り”として生きていますか?
障害を持つ子の親御さんで「私はこの子が命です。この子なしでは生きられません。この子も私なしでは生きられません・・・」と言う人がいる。
人それぞれ立場も環境も違うのだから、いろいろな考えをする人がいるだろう。
しかし、私の考えは違う。
私は皓平が大好きだ。しかし、「私がいなくては皓平は生きてはいけない」などとは思っていない。小さいころから「自立」を念頭におき子育てをしてきた。
また、将来、長男の陽介に皓平の面倒を頼む気もない。陽介には自分の思い描く人生を進んで欲しいと思っている。
親が子育てだけを生きがいと考えるのは、子どもに頼りすぎていないだろうか?
講演では「兄弟姉妹に犠牲を強いるのではなく、家族の一員として役割や責任分担を持たせることも重要だろう」「二十歳までは家庭の責任だが、あとは社会の責任ではないか」と話された。
小学3年生の皓平の親である私が皓平の20歳の姿を想像することは難しい。
しかし、20歳の皓平が親や人に依存しすぎて、自分では何もできないというのでは困る。
今は「自分で、自分で」という自己主張が強すぎて困る時もあるが、自分でいろいろなことに興味を持ち、意欲的な皓平でいて欲しいと思っている。
三大ダメ! 過保護! 過干渉! 消極的拒否!
子どもの発達の目を摘む一つ目は過保護。「障害を持ちかわいそうだから」「不憫だから」と手をかけすぎ甘やかしすぎることが過保護だ。
例えば、夕御飯の献立がカレーライスと決まっているのに「うどん、食べたい!」と皓平が言う。そこで「今日の夕ご飯はカレーライスだよ。うどんが食べたいなら土曜日にしようね」と見通しを持った話しをすると理解ができる。
しかし、納得するように言い聞かせるのではなく、「うどんが食べたいの?じゃ、作ってあげようか」などとわがままに甘やかすのもいけないことだという。
子どもだけに特別メニューを作るもの過保護の典型だ。
これは我が家でもありがちなことで、特に祖父母は「そんなに食べたいなら、すぐに作ってあげる」「好きなものを好きなだけ食べさせてあげよう」という結論をだしがちだ。
障害がある、ないにかかわらず人間は誰でも我慢することを学ばなくてはいけないのだ・・・。
そして、家族が楽しく同じ献立の食事を摂ることが、心と体の健康にもつながるだろう。
そして過干渉。
「早くしなさい」「ほら、ごはんがこぼれるよ」「右と左、靴が逆でしょう」「危ないからやめなさい」などと子どもがやる前に親が先に口を出してしまい、子どもの意欲ややる気をなくすパターンも良くないそうだ。
親がじっくりと子どもを待ってやれずに先回りしてしまう例だ。
子どもを励ます意味で“声かけ”をすることは大事だと思う。しかし、ただ単に口うるさいのとは違うのだなぁ・・・。
私は「子どものために」と自分にいいわけをし、必要以上に構いすぎていた。
「待つ」ことの重要さは保育園の時から聞かされているが、本当に難しい。
そして消極的拒否。
お兄ちゃんの陽介が「これ、できないからやって!」と言ってきた時に「お兄ちゃんだからできるでしょ」「皓平に手がかかりお母さんは忙しいから自分でやって!」などと要求を拒否すること。
お兄ちゃんは実際にできないから「やって欲しい」といっているのではなく「親にこっちを向いて!」との意思表示の場合が多いのだ。まさにその通り!
“その3”でも陽介の私に対するシグナルについて書いた。
障害を持つ弟がいるからと誰かが犠牲になることはないのだ。家族は誰もが主人公。障害のある子を必要以上に中心に置き、それ以外の家族に我慢ばかりさせていると心理面にも弊害が出るだろう。
兄弟については私も悩みがつきないが、どの子とも向かい合って話すことだけは心がけている。
過保護、過干渉、消去的拒否・・・。親にとっても子にとっても良くない。考えさせられる大事なテーマだと思う。
仕事と家庭の両立、そして趣味・・・
私は皓平が2歳になり、保育園に入園して以来、ずっと仕事をしている。
仕事を続けている理由の一つは、「皓平君、陽介君のお母さん」「佐竹さんちの奥さん」というだけで終わりたくないからだ。私はわがままで自己主張が強いのかもしれないが、家庭の外でも「佐竹弘子」という一人の人間として生きていきたいと思っている。
そして皓平には皓平の世界、私は私の世界を持っていたい。
そのためには趣味や仲間作りも大切なことだと思う。いろいろなことに興味のある皓平は、水泳、サイクリング、アフリカ太鼓、ダンス、乗馬と幅広い趣味を持っている。そのための条件を整えたり、チャンスを与えたりするのは親の役目だ。“好きこそものの上手なれ!”
皓平が皓平らしく、楽しくできる趣味を増やしていって欲しいと願っている。それが生きがいになり、生きていく張りになりと思う。
だから私も仕事と家庭の両立をがんばりたい。5月から新しい会社に移りフルタイムの勤務に変わった。そして残業もあるために時間に余裕がない日々が続いている。
子ども達と関わる時間も短くなった。残業を終え、家に帰ると皓平はすでに寝ていることもあった。子ども達との関わりは短くなっても「量より質」で子ども達の発するヘルプのシグナルや危険信号を見逃さずに接していきたい。
そして私がフルタイムで働くことができたり、残業をできるのも家族の協力や学童クラブの皆さんの協力があってのこと。そして皓平がすくすく元気に育っていることも本当にありがたい。
生後まもなく病気がちだった皓平を考えると今のように仕事ができるとは夢にも思っていなかった。
そうだ!お給料をもらったら家族で食事に行こう!今は仕事にも慣れずに家庭も仕事も失敗だらけだが、皓平、陽介に劣らず負けず嫌いの私。ファイトでがんばろう!
・・・とえらそうなことを書いたが、部屋は散らかっている、梅雨で洗濯物は乾かない・・・。仕事と家庭の両立には多くの課題が残る(笑)
最新情報!大きな声では言えないが、なんと私も“ンパ!ンパ!”そう、ヒップホップダンスを習い始めた。土曜の夜、週に1回だが、リフレッシュになる。
それにカラオケも好き!学童クラブの指導員のお姉さんを誘ってカラオケに行き、踊り歌わなくちゃ!皓平に負けずに私も趣味を広げ、私らしい人生を謳歌したい。
「Leeの特別支援教育」
ダウン症の人が描いた絵
JDSNアートコレクション
日本ダウン症ネットワーク(JDSN)のサイトの中にあるアートコレクションです。
ここにはすばらしい絵の数々がありますよ♪
大原さんの絵は、シンプルで温かい。まさに巨匠の作です。「とんぼ」「はなび」「うれしい日」などいいですよ〜!
岡本さんの絵は「お地蔵様」のほのぼのとした絵が楽しい。
なんりさんの作品では、粘土の「聖杯」などがユニークです。
私も子どもが描いた絵を見てはっとすることがあります。
知的障害があっても、いえ、あるからこそ、感性はとっても素晴らしいものをもっておられます。
ぜひごらんください。
画像は素材の小径 より
2002年7月7日