リンリン こうちゃん
その4
作・佐竹弘子 編集・Lee
こうちゃんはダウン症の明るい男の子。
今回は、こうちゃんの好物、趣味、そして、冬のスキーのお話です。
「Leeの特別支援教育」 2002年2月19日作成
8歳の誕生日
今回は8歳のお誕生日の話。
数日前から「こうちゃんは8!指はこうやるんだよ」と芸をしこむ?マインドコントロール?をしておきました。
それはこうちゃんが自分で理解して自己表現するためには時間がかかるからです。こうちゃんには事前の学習が欠かせないのです。しかし、一度覚えたことや、一度ギャグを言ってウケたことは絶対忘れません(笑)
養護学校の教室で…。
先生:「こうちゃん、お誕生日おめでとう!」
皓平:「ありがとう」
先生:「何歳になったの?」
皓平:「なな!」
…指を8にすることに集中して間違えてしまいました
先生:「こうちゃん、きょうからは8歳だよ」
皓平:「はち〜!はち〜!」
指も8!よかった。よかった…。一安心…。
ラーメン
こうちゃんの大好物は麺類。ラーメン、うどん、そば、スパゲッティーなど細くて長いものなら何でもOK!
お誕生日の夜はアイスクリームケーキにろうそく8本立てて「フー」したり、大好きな手袋をもらったりしたけれど、気持ちは今ひとつ…。
皓平:「ラーメン、食べたい!!!」
母:「今度のお休みにラーメン食べに行こうね」
皓平:「ラーメン、おおもり〜!」
こうちゃんは食べ物を見ると「おおもり〜!おかわり〜!」の連呼です。それゆえ、いつもダイエット中!?
やだねったら やだね ♪
ある日の夜
おじいちゃん:「演歌やっから見っぺ」
とTVをつける。今、大人気の氷川きよしが新曲を歌うところ
母:「皓平、このお兄ちゃん、♪やだねったら やだね♪を歌う人だよ」
皓平:いきなり飛んできて「歌え!歌え!」
しかし、今日は新曲…。とうとう1番は終わって間奏に…。
皓平:「♪やだねったら やだね やだねったら やだね やだねったら やだね♪」
と5回繰り返し大声で歌う。そして「バカ!歌え!」と言いテレビを切る!!!!!
一同、唖然…。皓平は♪やだねったら やだね♪を聞きたかったんだよね。
だけど、あちらにはあちらの都合がある…。
でも、さすが、昨年の流行語を受賞しただけあるね。養護学校でも大人気!
次は皓平に新曲の♪やっぱりね そうだよね しんどいね 未練だね♪をしこまなければいけないか…。
でもそれは無理のようだ…。だって今はミニモニが好きなんだもん!
スキーに行こう!
平成14年の2月の3連休に、保育園の時の保母さんからスキーバスツアーに誘われた。「みんな保育園の卒業生や保母ばかりだから、こうちゃんのこと知ってるし大丈夫だよ」と…。
一人で出かけることができない皓平は、親がいろいろな機会を設定しないと生活がマンネリになってしまう。そこで我が家では、常日頃からいろいろな体験を通し成長していって欲しいと願っていたので、行くことに決めた。
陽介に「保育園のスキーツアーに行く?」と聞くと「サッカーの練習があるから行かない」「じゃ、お母さんと皓平と二人で行っちゃうよ」「いいよ」というので、皓平と私と二人で行くことに…。
皓平は慎重な面がある。初めての食べ物、初めての場所などにすぐに適応できない。食べ物なら匂いをかいで触って納得してから。場所ならキョロキョロ見回して納得してからでないとチャレンジできない。そういうことなので1週間前から「スキー行く?ママと行くよね!」と事前学習。しかし、「行かな〜い!」え???毎日その繰り返し。
そしていよいよ当日の金曜の夜。出発は3時間後の22時。
母:「こうちゃん、スキーに行くから先にごはん食べようね!」
皓平:「行かない!」
おじいちゃん:「皓平、これ小遣いだ。気をつけて行って来い」
皓平:(せっかくもらったティッシュにくるまったお小遣いを投げつけて)「いらない、おじのバカ!」
母、絶句…(せっかくのお小遣いを…)
早々とお風呂に入りご飯を食べて、一週間のお楽しみのドラえもんを見る。その間に私は荷物の用意。
皓平:「ドラえもん、見る。(クレヨン)しんちゃん、見る。寝る」
どうも眠くなってきたらしい…。
母:「しんちゃん見たら、スキーに出かけようよ。」
皓平:「行かない!おうちいる」
父:「皓平、スキーに行かないと家に誰もいないよ」
皓平:「おおた(ひいおばあちゃん)、おうちいる。おおた(ひいおばちゃん)と、いる」
さすが、よくわかってる。ひいおばあちゃん(85歳でお元気)はいつも家にいるから…
母:「じゃ、ママと陽介と2人で行っちゃうよ!」と脅し気味に…。
皓平:「ママ、よーすけ、いってらっしゃい!」
え??????
母:「本当に行かないの?」
皓平:「行かない。ドラえもん、見る。(クレヨン)しんちゃん、見る。寝る。おうちいる」
皓平は頑固者だ。一度決めたらてこでも動かない。エサ?(いえいえ失礼!)食べ物やテレビで釣られることもあるが、すでにお腹は一杯。大好きなテレビも見ている。
何回もなだめすかし、脅しても努力は無駄に終わった…。
母:「しかたがない。陽介、皓平の代わりに行ってよ!」
陽介:「え〜、俺?」
父:「しょうがない。おまえが行って来い」
陽介:「お兄ちゃん、お母さんと行っちゃうよ、本当にいいの?」
皓平:「うるさい!バカ!シィッー!(ドラえもんが聞こえないから黙れ)!」
こりゃ、ダメだ!急遽メンバーチェンジ!荷物もチェンジ!そして陽介と私の二人で出かけることに…。
父:「陽介が行くなら、俺も行きたかったなぁ…」
母:「じゃ、行く?私、皓平と留守番してるよ」
父:「でも、俺誘われてないから。安比、行ったことないから行きたかったなぁ…」
場所は岩手県安比高原。遠い、遠い。22時に出発し到着は朝の6時!やっとスキー場到着。
母:「がんばって滑ろうね。お母さん、下の方で滑っているから…」
陽介:「母ちゃん、転ぶなよ」
すかさず、母、ドーン!!!
陽介:「だっせぇ…」
ださくても何でも、体が言うこと聞かないよ…。からだが痛いよ…。
1日目 大吹雪。2日目 中吹雪…。寒いよ〜。皓平は家でのんびりかな? この吹雪を予想する予知能力でもあるのだろうか? 無事2日間終了。15年ぶり?のスキーも怪我がなく終わった。でも楽しかった!
日曜の夜中(すでに月曜になっていた)に、やっとやっと家に着いた。
翌朝、
皓平:「ママ、おっはっ!旅行行った?スキーやった?」
母:「やったよ。皓平は誰といたの?」
皓平:「おばちゃん、ブーブー(おばあちゃんと、車ででかけた)」
母:「え?パパは?」
皓平:「いないよ。ブーブー行った(車ででかけた)」
なんと、私(鬼?)のいぬ間に、父は皓平をおばあちゃんに預け、遊びに行っていたのだ。のんきなヤツだ!!
母:「皓平、お手々、離して!」
皓平:「いやだ〜!」
母:「これ、片づけてくるから、少し待ってて!」
皓平:「いやだ〜!」
皓平は私の手を握って離さない。今日も母は皓平を置いて出かけると思っているのか?とうとう、ひっつき虫でその日は終わった。
翌日の学校で。
先生:「スキー行ったの?」
皓平は聞こえないフリ…。そうなんです。皓平は都合の悪いことは知らないフリ、聞こえないフリが得意なのです。あれほど「スキー、スキー!」騒いでいたのに、「行かなかった」とは言いにくかったのでしょう…。
母:「皓平、今度はスキー行く?」
皓平:「行かない、おうちいる」…。
家にばっかりいたらデブになっちゃうよ!外で運動しなくちゃ…と、筋肉痛の体をいたわりながら、一緒に並んでスキーをする日を願う母です。