リンリン こうちゃん
その6
作・佐竹弘子 編集・Lee
こうちゃんはダウン症の明るい男の子。こうちゃんは色や数をこうしておぼえます・・・。では、女性を見る目は?
おもな登場人物
主人公・次男の皓平くん
(こうちゃん)長男の陽介くん
(よーすけくん)ママ パパ おばあちゃん おじいちゃん とと子さん
赤ちゃん だいすき!
ある土曜日、皓平が黄色の自転車で颯爽と出かけていきます。もちろん、黙って…。すぐに気がつき私も自転車で追いかけました。が、逃げる、逃げる…。早いこと…。行く末は競輪選手か…、と思いながら追いかけていると、突然停まる。
散歩中のベビーカーを覗き込み、「かわいいねぇ、かわいいねぇ…」と赤ちゃんの頭をなででいました。
それは以前、おばあちゃんと野菜をおすそ分けに行ったことのある近所のとしこおばちゃんが、ひ孫の赤ちゃんのベビーカーを押していたところでした。
としこおばちゃん:「あ、こうちゃん、この間来てくれてありがとう」
皓平:「はい、赤ちゃんいた!」
としこおばちゃん:「この間来てくれた時、赤ちゃんもいたんだよね」
母:「あ、そうですか。お世話になりました。あのー、いつお邪魔したんでしょうか?」
としこおばちゃん:「あ、このあいだだ。家さ来て、『こんちは』って言うんだ。美代子(お嫁さん)が出たら、『おばちゃん いる?』ってこうちゃんが言って。その時も赤ちゃん抱いてたんだ。こうちゃんに、『上がっていけ!』って言うと『(夕方で)暗い、かえる』って言って帰ったんだよ」
母:「あ、そうですか。知らなかった。」
としこおばちゃん:「心配になって見に出たら、バス通りの方さ、行こうとしてるんだ。で、『こうちゃん、だめだ。家で心配してるよ。まっすぐ帰れ』と言い、見えなくなるまで見送ったんだ…」
母:「本当にありがとうございます!こうちゃん、おばちゃんち、行ったの?」
皓平:「行ったよ。」
としこおばちゃん:「今度は、ママに『おばちゃんち、行ってくる』って言ってから遊びにおいで…」
皓平:「はーーーーい!」
母:「じゃ、こうちゃん、今日はご用事あるから、おばちゃんにさよなら言って帰ろう」
皓平:「あかちゃん、バイバイ!かわいいねぇ!チュッ!」
とキスを…。これには私もとしこおばちゃんもびっくり…。
小さい子が大好きな皓平は、赤ちゃんがかわいかったのですね。
というわけで黄色いお気に入りの自転車に乗った“リンリン こうちゃん”はみんなから声をかけてもらい、楽しくサイクリングしています。でも、黙っていかないで・・・。
色はむつかしい
学童クラブの帰りの車の中で…
母:「ママの車は何色?」
皓平:「ピンク!」
母:「ブー!ママの車は赤!じゃパパの車は何色?」
皓平:「ピンク!」
母:「ブー!パパの車は白だよ。じゃ、おじいちゃんの車は?」
皓平:「ピンク!」
母:「ブー!おじいちゃんの車は白だよ。じゃ、皓平のリンリンは何色?」
皓平:「まっきいろ!!!!」
母:「正解です。でも”まっきいろ”じゃなくて“きいろ”って言えばいいんだよ。」
皓平:「はーい!まっきいろ!」
母:絶句…
皓平:「おばちゃん、ブーブーは?」
母:絶句…。おばあちゃんの車の色はシルバーブラウン?そんな色あったかな?皓平になんて、説明したらいいだろう…?
皓平「ブー、ピンク!」
あらあら、おばあちゃんの車はピンク色?
でも、自分の大好きなリンリンだけは色がわかってよかったね。「まっきいろ」って…。
<後日談>これを書いたのは2週間前です。今では、「ママブーブー、あか」「こうへいリンリン、まっきいろ」「ようすけリンリン、あおいろ」と話すようになりました。ほんの少しずつですが、成長振りがうかがえます(笑)。
女性を見る目!
皓平は学童クラブの指導員さんの中で、一緒に泥んこや水浸しになって遊んでくれるとと子ちゃん(ニックネーム)と大の仲良しです。
ある日、私が学校の連絡帳に「昨日の日曜日も一人で自転車で出かけてしまいました。皓平には目的があるようですが、黙って、しかもこっそり行くので困っています!」と書きました。
すると先生から
「黙って行くのは困りますね。学校でも目的はあるようですが、高等部棟に行っていたことがあり、びっくりしたことがあります」という返事が帰ってきました。
母:「こうちゃん、学校で高校生のところに行ったの?」
皓平:「行ったよ」
母:「どうして行ったの?」
皓平:「とと子、会いに行った」
母:「え?とと子は学校にはいないよ。学童の指導員なんだよ。大人だよ。学童のバスで学校に迎えに来てくれるんだよ」
皓平:「とと子、こうこうせい!」
母:「じゃ、とと子は学校にいたの?」
皓平:「いなかった。おやすみ!」
…
とと子ちゃんは、昼間は学童クラブで子ども達と遊び、夜は養護学校の先生を目指して勉強しているまじめな女性です。確かに純粋でのんびりムードの人ですが、皓平の目に「高校生」と映っているとは…。
とりあえずフォローのつもりで、「とと子ちゃん、皓平に高校生って思われて、若作り大成功だね!」と言うと、「やだぁ…」。そりゃそうだよね、年頃の乙女だもの…。
とと子:「こうちゃん、とと子は指導員、わかる?」
皓平:「わかった、こうこうせい!」
…
他の指導員さんのことは大人とわかっているのに、どうしてとと子ちゃんだけ…。ま、若く見えるってことはいいことだけどね…。
生活に密着した生きる力
皓平はお風呂に入り、二階の寝室に行く前には必ず、「ようすけの、こうへいの!」と言って大好物のみかんを持ってくる。自分の分だけでなくお兄ちゃんの分も忘れないところが皓平のいいところ。
「お母さんの分も持ってきて!」と言うと「はい!ようすけの、こうへいの、ママの!」と言って、3つのみかんを大事そうに抱えて持ってくる。
皓平はお手伝いが大好き。冷蔵庫を開けての食材チェックも欠かせない日課の一つ。
皓平:「ママ、食べる?」とトマトを見せる
母:「そうだね。食べようか。じゃ、2つ、持ってきて!」
野菜室を開けて、2つ持ってきて
皓平:「はい、どうぞ…」
母:「ありがとう!」
皓平は生活に必要な数をわかっていて「3つ持ってきて」と言うと、きちんと3つのみかんを持ってくる。しかし、すでに3つあるみかんを見せて「これ、何個?」と聞くと、「3つ」とは答えられない。数を数えることは「1、2、3…」と知っているが歌のフレーズのように思っていて、数を数える手段として理解していないようだ。
でも、今の生活では、みかんをとっさに「3個」とわからなくても、「陽介と皓平とママの分、3個持ってきて!」と言ったときに持ってきてくれたほうが、家族は助かるなぁ…。
そして、今のところまだ、字が書けない。しかし、「さたけこうへい」というひらがなは意識してわかっている。学校では、ひらがなで書かれた友達の名前カードをすべてわかっているそうだ。
これが「生活に密着した生きる力」かなぁ…。だといいなぁ…。
Leeよりことばと数の学習について
ここで子どものことばと数の覚え方について、簡単に述べます。
★「色はむつかしい」のように、生活の中で色の名前をことばに出すことにより、色の認識が高まります。特に、自分に身近なもので教えると、効果があるでしょうね。こうちゃんが自分の自転車を「まっきいろ」と覚えるように・・・。
★こうちゃんがミカンを持ってくるのは「ぼくの、お兄ちゃんの、ママの・・・」と一対一対応をしているのですね。この一対一対応は数の基礎になります。
こういうことを繰り返すうちに、数えることができるようになります。
数の覚え方にはステップがあります。
第1ステップ・・・・1から3まで
第2ステップ・・・・1から5まで
この第1ステップは比較的に覚えやすいですが、第2ステップ、そしてその先などは思ったより難しいものです。
数は、単に数えるだけでは身についたとは言えません。こうちゃんのように、生活の中でいろんな経験をしながら身につけていくものです。
こうちゃんのおかあさんのことばと数の教え方は、こうちゃんの気持ちを大切にしながら生活の中で教えていく、とても自然なものだといえるでしょう。
「Leeの特別支援教育」 2002年3月2日作成