リンリン こうちゃん
その9
作・佐竹弘子 編集・Lee
春です。春はこうちゃんの失恋の季節・・・。そして通知票ではこうちゃんはどんなに成長したでしょう?
「Leeの特別支援教育」
皓平は言いつけ魔?
ある土曜日、父、陽介、皓平の三人で、お昼に中華屋さんに食べに行った時のこと。
母:「お昼、何食べたの?」
皓平:「ちんらい(中華屋さんの名前)、行った」
母:「誰と食べに行ったの?」
皓平:「パパ、ようすけ、こうへい、さんにん!」
母:「皓平は何を食べたの?」
皓平:「ラーメン、コーラ!」
母:「コーラも飲んだの。陽介は何を食べたの?」
皓平:「ラーメン、ぎょうざ ふたっつ!」
母:「すごいね。たくさん食べたね」
皓平:「パパ、ラーメン、チャーハン、ぎょうざ、カンパ〜イ!」
母:「え??乾杯ってビールも飲んだの?」
皓平:「ビールのんだ、おうち、グーってねた!」
母:「え?一人で寝たの?」
皓平:「寝たよ!」
皓平はありのままを報告する。嘘はつけないなぁ…。今年、父と皓平はダイエットするはずなのに…
パニック?
ある土曜日。
父も母もでかけなければならなかったため、児童クラブのお姉さん、美咲ちゃんに皓平のことを頼んだ。皓平は美咲ちゃんの家族が大好きで、中学生の妹の美香ちゃんとも大の仲良し。
午後になり、美咲ちゃん、美香ちゃん、皓平の三人でショッピングセンターに買い物に行った。するといきなり、皓平が床に寝転がる。
美咲:「こうちゃん、何やってるの?」(もしかしてパニック?)
よく見るとゆっくりクルクル回っている。
皓平:「おの!」
美咲:「え?小野君の真似?」
そうなんです。小野君は学童クラブのお兄ちゃんで、ブレイクダンスの達人です。学童のバスを待っているときも養護学校の庭でブレイクダンスを踊ったりするそう。
皓平はその真似をして、“床でくるくる”と回っていたらしいのです。でも、いきなりショッピングセンターの床でやるというところが、なんとも皓平らしい…
毎月、お誕生日がいい?
皓平の学年は合同で毎月お誕生会を開く。2月生まれの皓平は、自分の誕生会が開かれることをずっと待っていた。そしてついに待ちに待った2月生まれのお誕生会。
皓平のほかにも2月生まれの友達が2人いた。前に出て一人ずつ話をしたり、ケーキにろうそくを立て吹き消したり、プレゼントをもらったりして大満足だった。
そして3月の誕生会。3月生まれの友達は一人きりだった。みんなに「おめでとう!」と言われ、うれしそうにしている友達を見ていて、皓平は腹が立ったらしい(推測)。
そして皓平は2列目にいたのだが、1列目の友達をドーン!と押し、転ばせてしまった。
母:「皓平、お誕生会やったの?」
皓平:「やったよ」
母:「3月生まれは一人なの?」
皓平:「一人だよ」
母:「こうちゃん、お友達のこと、何かやった?」
皓平:「やんない!」
知らないふりをして、何を言っても返事をしなくなってしまった。そう、皓平の得意技“聞こえないふり”というやつである。
3月生まれの友達が一人だったのでうらやましかった?、1列目の友達がいたので前が見えなかった?などいろいろ言いたいことはあるかもしれないが…。それにしてもたいした怪我じゃなくてよかった。
でも、我が家って、どうして兄弟揃って怪我をさせるほうなのでしょう。
皆さん、ご迷惑をおかけしてすみません(苦笑)
春は失恋の季節?!
皓平は学童の指導員で、養護学校の先生を目指して勉強をしているとと子ちゃんが大好き。
そのとと子ちゃんが、4月から12月まで、産休の先生の代わりに非常勤で隣町の養護学校の先生になることになった。そして児童クラブを辞めることになった。
先日、お別れ会があった。皓平はそのお別れ会で、とと子ちゃんが辞めることを初めてを知り、ショックを受けたらしい。
そして、感極まり泣いてしまったとと子ちゃんを見て、なんとなく事情が飲み込めたようだ。
その帰りの移動のバスで、隣に座ったとと子ちゃんに「バカ!ととのバカ!」と怒り出し機嫌が悪かった。
その日は帰っても機嫌が悪かった。
母:「皓平、とと子ちゃん、学童辞めるの知ってる?」
皓平:「(怒ったふうに)知ってるよ」
母:「あっちの学校の先生になるんだって」
皓平:「うん」
母:「淋しくなるね」
皓平:「もしもしする!もしもしする!」
あ、そうか。電話をかければいいのか…。
皓平に高校生と思われているとと子ちゃんだけれど、これだけ子どもの心をつかんでいるんだ。新しい学校でもがんばれるよ!フレーフレー!とと子! がんばれがんばれ!とと子!!
春はお別れの季節。そして失恋の季節?!
通知票に見る皓平の成長ぶり
お陰様をもちまして、我が家の皓平も無事、2年生を修了しました(パチパチパチ!)
修了式には“あゆみ”という通知票をいただいてきました。皓平の通う養護学校の通知票は、数字での評価ではなく、すべてが言葉での評価です。一学期から読み比べると随分と成長ぶりがわかります。今回は親バカモードで、少しほめてみたいと思います。
生活面は、一学期はズボンやシャツの前後がまだ難しく、反対になってしまうこともあったようでした。今は、周りのことに気を取られて取り掛かりが遅くなることもありながらも、やり始めると自力で最後まできちんとできるようになりました。
うっかり手伝おうとすると「だめ、やんないで!」と叱られるほどです。親が不精なせいか、小さい頃から「自分でね!」と言い聞かせてきたせいか、自分のことは自分でやろうと努力する姿が、立派だと思います。
給食は、一学期はお皿をなめたり、人のものまでこっそり食べたりしていました(笑)。
今は、喜んで給食当番をかって出て、「大盛り!」と言いながらお皿に盛り、残さず食べるようになりました。
「皓平が給食を残す時=具合の悪い時」という図式も学校で定着しました。好き嫌いがなく大盛りの給食をたいらげるNo.1です!
「リンリン こうちゃん」だけあって、学校の自由遊びの時間も自転車が大好きです。我先に教室を飛び出し、お気に入りの自転車をゲット。そして自転車を自由自在に乗りこなし校舎の周囲を走っています。時々、力が余って(?)走ってはいけない場所に行ってしまい脱走することも…。3年生になったらルールを守ろうね!
一番の成長は「言葉」です。一学期は「やんない」「もっと」「ちょうだい」「やだ」「いく」などと、単語で自分の気持ちを表現していました。今はもう一つ言葉がつき「こうへい、がっこういく」「リンリンのる」「もっとちょうだい」などと二語文から三語文が話せるようになってきました。
以前は友達といさかいが起きると、言葉よりも手が先に出てしまうことも多々ありました。(今でも時折あるようですが…)
今は、トラブルが起きても「ごめんね」とすぐに仲直りができるようになってきました。
そして、一番、評価に値することは、いつもニコニコしていて毎日学校に楽しく通えたことです。スクールバスから「おっはっ!!」と大きな声で降りてきて、学校でも有名人です。先生が大好き、友達が大好きなのです。
自分の好きなことや好きな物に対して意欲的な皓平。自分で最後までがんばろうとする皓平。これからも優しい心と明るさをもって、3年生になってほしいと思います。
2002年3月26日作成
知的障害を持つ人たちの劇団クレアム
「その8」でダウン症の人に関した映画を紹介しました。その中の「八日目」という映画に主演したパスカルデュケンヌは、ベルギーのリエージュで活動するNPO団体クレアムで演劇を学んだそうです。 (JDSN映画情報「八日目」、ASMIC ACE社の八日目ページ)
このサイトは、ベルギーの知的障害を持つ人たちの劇団クレアムが2002年2月7日〜18日に日本に来て公演した時のものです。