Leeの特別支援教育
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サトくん     

その1

作・高田あや   編集・Lee

サト君は元気な自閉症の男の子。ではまずサト君17才の誕生日の話から・・・。

おもな登場人物
主人公・次男のサトくん  長男のまこっちくん ママ    パパ(せんべいさん) 
 
 
今日はサトの誕生日
 
 サトは17歳になりました。カレンダーに書き込んでいるので、朝から「ケーキ!ケーキ!」とうるさいこと。
 今回のケーキはイチゴのショート・ラウンドケーキにしました。
 サトはろうそくの火を消すのが好きなんですよね。火は怖いので決して触りません。
 火をつけてくれとせがむので、明かりを消しました。

「サト、お誕生日おめでとう!」私が言うと、サトも「お誕生日おめでとう!」と繰り返しです。
「アンタの誕生日だよ!」と突っ込みます。
「サトにいくつになったの?」と聞いたら意味が理解できず「・・・・」
「サトは何歳?」と聞くと答えが返って来ましたが、「12歳」ですって!
 
 もう何年も前から12で止まってるなぁ。「何歳?」の対句は「12歳」ということか・・・。
 プレゼントはもうクリスマスと兼用だったので、今日はケーキだけでした。年々愛想のないセレブレーションになっていきます。
 
  サトにコーヒーを入れてもらうと

 中学の障害児学級の時、先生が「言葉の獲得」をめざして、行動を全て言葉で表すように指導されました。初めのうちは言葉が増えて喜んでいたんですが・・・。 サトは自閉でしょ、こだわりとして取り込んでしまいました。
 以降、今もずっと何かする時必ず「僕は、○○をします」と宣言します。トイレに行くにも「お母さん、僕はおしっこに行って来ます」って大声で言うから、外では恥ずかしいですよ。

 サトにコーヒーを入れて欲しいと頼むとします。コーヒーを入れるのに必要なのはお湯。このお湯を入れるのに大変時間がかかります。
 これはサトがコーヒーを入れるまで発する言葉です。うちの電動湯沸しポットに向かって、サトはこう言い始めます。

「ぼくはお湯がないでした〜」「ぼくはお水を入れました〜」「ぼくはお湯を入れました〜」「サト、お湯ある〜」
「ぼくはお湯をありました〜」「ぼくはお湯を沸いてました〜」「ぼくはお湯を沸かしました〜」
「ぼくはお湯をまだでした〜」「ぼくはお湯になりました〜」「ぼくはお湯を入れます〜」

 以上、これを完璧に言わないとお湯はつがないんです。途中で邪魔が入ったりすると、最初から言い直します。 言ってみて気に入らないとやり直します。
 これらは全部学校で教わった言葉のようです。家では誰もこんなに丁寧に言わないもの。まるで、国語の教科書ですね。
 なお、途中の「サト、お湯ある〜」というのは、もうお湯があるのに「お湯を沸かす」といい始めたサトに、私がツッコミを入れた言葉を、そのまま自分の一連の言葉に組み入れてしまったものです。

 サトにコーヒーを入れてもらおうと思うと、気長な神経がなくちゃダメですね。私はずいぶん鍛えられましたよ。
 もともと短気な父親のせんべえさんもずいぶん待てるようになりました。
 途中で待てなくて自分で入れようとすると、烈火の如く怒り出す・・・。ちょっと始末に負えないけど、時々はこっちの気持ちもわかってもらいたくてイジワルしますけどね。

 自閉の子は順番どおりつつがなく事を運んで、自分の精神を安定させる所がありますから、むげにそこを直そうと思うと逆効果なことが多いです。
 それでも、サトはその辺の理解が全くないわけではないので、押したり引いたりしながら普通のやりとりの獲得をめざしているわけです。
 たいてい親のほうがしびれをきらしてしまうんです。修行が足らん・・・。

  不機嫌の合図
 
 小さい時は機嫌が良いのか悪いのかわかりにくかったサトですが、大きくなってくると自我の芽生えも目覚しく?機嫌がわかるようになって来ました。

 サトは言葉が自在に使えません。文法めちゃくちゃ・・・というより日本人が旅行に持つ○○語ハンドブックのように、この場面にはこの文章、慣用句というふうにインプットされているのです。

 だから、お風呂に入る時も私たちのように「そろそろ、お風呂に入ろうかな?」とか「今日は面倒だな」とか言う言葉は使えません。
 入りたい時は「おかぁしゃん、お風呂に入りましゅ!」と言います。面倒な時はこの言葉に態度が加わります。ユッサユッサ体を揺すって、なかなか入らないんです。

 でも、入浴時間が自分の中で決まっているからジレンマが起こるんですね。言葉で表そうにも言葉を知らない・・・。
 それで最近サトがひんぱんに発するのが、「ま・ま・ま・ま」とか「ば・ば・ば・ば」とかの連続。これが出てくると不機嫌の証拠です。

 兄のまこっちのように「どうしたらええねん!」とか「ほっとけ!」とか「ムシャクシャする!」とか言えたら、どんなにかサトの気持ちもすっきりするんでしょうけどね。これ以上の言葉の獲得は望めないかもしれないから、ちょっと不憫になってしまいます。
 家族はみんなサトが不機嫌とわかってるから、「機嫌が悪いんヤなぁ」とか「ああ、不機嫌だ、不機嫌だ」と代わりに言ってあげるんですけどね。サトは理解してくれるかな?
 実のところ、それをするとそのうちこっちまで不機嫌になってしまうんです。これはイカンなぁ・・・。

 神戸ルミナリエ 2001
 
 12月19日にサトと二人で神戸ルミナリエ2001に行きました。サトには食い気100%のイベントです。
 南京町へ行って腹ごしらえ。サトが今日食べたものは
《キムチラーメン・水餃子・揚げシュウマイ・肉まん・コロッケ・焼きビーフン・チンジュウナイチャ(タピオカ入りミルクティー)・コーヒー・たこ焼き》

 おなかも満たされたからいよいよルミナリエ見物です。画像をご覧下さい。せんべえさんとまこっちのお土産に豚まんと焼き餃子を買いました。
 東遊園地にある四角いオブジェまで来て宝くじを買い、ネスレのコーヒーを飲んで、オムそばとたこ焼きを買って帰りました。
神戸市立博物館。神秘的なライティングです。

ガレリア/月の道しるべ《Pietre di Luna》。遠くから見ると厚みがありますが、近くで見るとアーチの間隔がかなりあります。


自閉症について

自閉症の人は、見たり聞いたりすることや感じることを普通の人と同じように理解することができません。このため、人と関わることや、自分の気持ちを伝えたり相手の気持ちをくみとることがとても苦手です。行動も自分勝手に見えることがあります。
普通の喋り方やコミュニケーションのもち方、人や物事への適切な関わり方を習得することは、容易ではありません。
・・・・「あたらしい自閉症の手引き」「自閉症Q&A」より