Leeの特別支援教育 
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サトくん     

その2

作・高田あや   編集・Lee

サト君は17才の自閉症の男の子。サト君はことばに障害があるけれど、できることもたくさんあるんです!

おもな登場人物
主人公・次男のサトくん  長男のまこっちくん ママ    パパ(せんべいさん) 
  サトの家事手伝い

 私が家事をルーズにやっていると、サトはいろんなことができるようになりました。
 サトは家の中でも一日が同じように過ぎてほしいので、私がグズグズしているとよく命令します。命令に従うのもシャクなので、サトのできることはやってもらうようにしてきました。

 その結果、次のことはサトの大事な役目になりました。

 朝夕刊を1階の集合ポストから取って来る
 うちのマンションはオートロックで、新聞は家まで配達してくれません。サトが起きるとすぐ着替えて、1階のポストに取りに行きます。ポストのかぎの開け方もすぐ覚えました。ダイヤル式で結構ややこしいんですが・・

 自分のパンは自分で焼く
 出かける時間がみんな違うので、朝のパンは自分で焼くことになっています。サトが焼く時私が便乗するのはいうまでもありません。時にはインスタントコーヒーを淹れてくれることもあるのです。

 ゴミの日にはゴミを集めて袋に入れ、学校へ行く時にコンテナに入れていく
 きちんと曜日を覚えているので、朝一で催促されます。私が大きなゴミ袋を抱えていると、サトが各部屋のゴミ箱を持ってきてゴミを入れます。袋を結ぶのは下手なので私がやります。
 サトがゴミを持って学校へ出かけるとき「サト、ゴミを捨ててきます!」「おかあさん、行って来ます!」と大声で言うのでチト恥ずかしい・・・。

 学校へ持っていった水筒とお箸、弁当箱を洗う
 これは中学校のなかよし学級で身についたこと。石けんをしこたま使うので、液体泡ポンプでやらせたいのですが、どうしても固形を使ってしまいます。私が代わりにやろうとすると、すごい剣幕で「自分で〜!」と取り上げてしまいます。

 洗濯物を取り入れる
 夕方、ピアノの練習の前に取り入れてくれます。天気が悪くて乾いていない時が今までちょっと問題でしたが、最近シャツのわきの下や靴下を触らせて教えたところ、区別がつくようになりました。便利、便利!

 風呂洗いと風呂の湯を貯める
 必ず8時に入りたいサトは私が支度をするのが待てません。あんまりうるさいから、これもサトにやらせることにしました。洗剤不要のスポンジで洗うのです。性格が細かいから結構きれいに洗います。あとはお湯はタイマー設定でOK!たまに私が隅々を洗います。

 食事の前にテーブルを拭いて箸を並べる
 これも絶対他人にさせません。これをする前にはちょっとした儀式があって、広告をぺらぺらめくったり、トイレに行ったりしなければ気がすみません。ところが、これが、気に入らないことがあると時間がかかるんです。
 でき上がった料理が気になって私が用意を始めるともう大変!大声あげて暴れ、食事になりません。融通の効かんやっちゃ!

 他にもこまごましたことがありますが、これらはぜ〜んぶサトが自分の役割として決めていることです。すごく助かっていますが、融通の利かないのが玉にキズ。
 この頃少しずつの変化を受け入れてくれるようになってきているのがせめてもの救いです。

 しかし、サトがこういうことをできるようになったら、途端にまこっちやせんべえさんが動かなくなったわ。
 
   生八橋が・・・
 
 今日はイカリスーパーで栗入りの生八橋を見つけたので、コッソリ・・・いえ、皆で食べようと思って買いました。
 心配はしていたんだけど、やっぱりサトに食べられてしまいました。5つ入り全部!

 サトは何をするにも「お母さん、○○をします!」と許可を得に来ます。正確にいうとそれを言わなきゃ事が進まないので、ってことなんですけどね。
 ところが、食べ物に関しては別!いつも勝手に食べてしまいます。せんべえさんが食べなかった前日のサラダなんかでも、学校から帰るとおやつ代わりです。
 悪いとわかってるから隠れて食べたりもします。この辺はみんなと一緒。
 壁の後ろにぴたっとくっついてハムを食べてたり・・・。
 見つけて「こらっ!」と注意すると両目を片手で隠して、こちらに見えてないつもり。笑っちゃいます、全く。
 そんなに食べてもちっとも太らないから羨ましい。

 それがわかってるから注意してたはずなんだけど・・・。イカリで買った生八橋は「スーパー怒り」と共に幻と消えたのでした。
 
サトはアイドルがお好き
 
 テレビがついていないとダメな子で、サトがいるとテレビは見ていてもいなくてもつけっぱなしです。
 よくないのはわかってるんだけど・・・

 もちろん好きなのはNHK・・・、子ども番組総ざらえですね。夕方はコレ。
 夜になるとテレビ大阪・・・、だいたい8時まではアニメです。

 今までテレビは「ついていること」が最重要だったんだけど、この頃画面をまともに見ることが増えてきました。特に好きなのは歌番組。モーニング娘が出てくると、熱心ですよ!

 それだけかな?と思っていたら、昨日のこと・・・。
 名探偵コナンのエンディング曲を一緒に声を出して唱えていたので、「これ、誰が歌ってるの?」と聞いてみたんです。
 初めは意味が通じず、「コナンです!」と答えていたけれど、重ねて「歌は誰?」と聞くと、ちゃんと「ハマシャキアユミ〜!」と返ってきたじゃありませんか。
 知ってるんだぁ。また一つ発見でした。

 サトはアイドル歌手、女の子が出てくると嬉しそうです。これって、普通?順調な精神発達!
 兄のまこっちは全く興味ナシの男の子!こっちの方が変わってるんだわ。
 
 お墓の掃除

 日曜日にせんべえさんにすっぽかされて、今日、サトと二人でお墓の掃除に行って来ました。軍手、雑巾、園芸道具を携えて・・・。
 サトは「お墓」という言葉が覚えにくいようで、最初、「オハタの掃除」「オカカの掃除」、挙句の果てに「タナカの掃除」なんて言っていました。どこからタナカが出てくるんだろう?

 うちのお墓は京都にあります。久しぶりに長く電車に乗りました。
 行きはずっと立ち通しだったけど、サトは平気です。外の過ぎ去っていく景色を興味深く見入っていました。サトは小さい頃から乗り物に乗せると大人しいのです。

 着いてまずすることは、うちのお墓を捜すこと。サトにも手伝ってもらってお墓の名前を一つ一つ確かめて、やっと探し当てました。不信心の私もさすがに後ろめたくて、一生懸命きれいにしました。
 サトは草むしり大好き人間ですから、一心不乱に働いてくれます。なぜか菊が茂っていて一応抜くことにしましたが、サトはちゃんと残して草だけを抜いています。そのへんが感心するんです。誰も教えてないのにね。
 墓石もきれいに拭いて、2時間近くかけて誰が見ても恥ずかしくないお墓にしてきました。
 まわりは桜が満開で桃源郷ならぬ桜源郷でした。秋にはもみじがきれいだし、おじいちゃん、おばあちゃんもここなら満足でしょう。特におばあちゃんはお花の好きな人でしたから。

 お掃除が終わって一服するのに、サトに好きなジュースを買ってくるように頼みました。150円渡して「一本だけでいいよ」と買いにやらせました。無論一本しか買えない金額ですけど・・・。
 ほどなくして戻って来ました。手にもっているのはお茶の500mlボトル。おつりゼロ。これもサトの知恵のある部分です。一口私がもらって、あとはサトが一気飲み。これでサトは大満足です。

 帰りの電車は運のよいことに、ずっと座って帰ってこられました。
 私は帰ってからぐったりでしたが、サトはいつもと変わりなく・・・。
 感想を聞くと「オハカの掃除、よかったです〜!」と言いました。よかったね、やっと「お墓」を覚えたか。



 

このエッセイの著者について

 このエッセーは、高田ayaさん(仮名)のサイトaya*Bem-vindo!の日記の文章を、Leeが編集したものです。
 Leeのサイトの掲示板に高田ayaさんが書き込まれたことから知り合いになり、このエッセー誕生がすることになりました。
 サイトのプロフィールによると「生まれたのは・・・1954。大阪市・・それから 岡山・・愛知・・高知・・大阪に戻って、高槻市・・ブラジル・・東京・・また大阪市に戻って・・現在は神戸 」だそうです。すごい!