サトくん
その5
作・高田あや 編集・Lee
サト君は自閉症の男の子。17才のサト君に春がやってきました。高田家のチャンネル争いの様子もお読み下さい。
主人公・次男のサトくん | 長男のまこっちくん | ママ | パパ(せんべいさん) |
人の真似
昨日、サトがお風呂上りに、おもむろに引き出しから出しててきたものがありました。
かかとの角質を取るやすり。もちろん、私のものです。
あぐらをかいて踵をせっせとこすっています。角質をこすると白い粉になってやすりにつきます。自分のもそうなってるか確かめて、ゴミ箱でトントン、それを落としてまた引き出しにしまいました。
私のやることをいつも見てないようで見ているんです。
サトはじっと見て覚えるのではなく、視界に写るものを一瞬で覚えるようなのです。だから、いつも見られているという記憶がありません。
でも、ずっと前からしていたことを、なんで今頃突然思い出してやったんだろう?・・・というのも、おかげさまで私の踵は最近きれいなので、手入れはご無沙汰してるからなのです。
サトに聞いても答えはないでしょう。
それよりも、恥ずかしいことをサトの前ではしてはいけないということを、肝に銘じなければ・・・。 あぐらをかく姿は私の姿そのものなんですから!
チャンネル争いの果てに
うちのテレビのチャンネル権はサトが握っています。
ゴールデンタイムには、サトが見たいものというのではなく、いつも家族が見ているチャンネルに合わせます。
今日は違ったものが見たくても、サトは「変えない!」とリモコンを握って抵抗します。
たいていはすったもんだの挙句、変えてはもらうんですが(・・もらうって言い方は良くないか?)
でも、昨日はせんべえさんが怒ってしまって、そのおかげでサトもパニック寸前!
寝室のテレビで見るように言い渡されて、かんしゃくを起こしながら頭をぶつけたり、壁を叩きながら寝室へ行きました。いつもの通りにならなくて機嫌がなかなか直らないようだったので、そぉっと寝室へ行ってみました。
ゴロンと横になって悲鳴をあげて悶えています。
後ろから寄り添って見ました。普段なら身体の接触は拒絶なんです。
耳元で「サトはずっとテレビ見たいものを見てるんだから、お父さんが帰ったらお父さんの見たいものを見せてあげなきゃ・・」とか何とか、わかるかどうか定かではないけれど耳元で囁いてみました。
すると、イライラは一変!サトの方からほっぺたをくっつけてきます。唸りが「ふんふん」という甘え声に変わって、すぐに穏やかになりました。
やった!・・やはり小さい子と同じ手が使えました。
でも、これはハタから見てたら異様だろうなぁ。 相手は17歳の男の子だもの。
まこっちなら10歳でアウトだっただろうね。「赤ちゃん違うわぁ!」とか言われそう。
どの場面にどの方法が使えるか簡単にはわからないんだけど、これも一つの方法です。
案の定、朝になって夕べと同じように摺り寄って行ったら「ヤメテ下さい!」と言われてしまいました。
今日はプロ野球が見られる?!
私、隠れ?かな、隠れてるつもりはないけど実は阪神タイガースのファンです。親の影響でしょう。
今年は調子が良くて、テレビ中継が楽しみです。
見たくて仕方がないのに、うちにはサトという融通の利かない子がいます。
前にも書いたけど、何曜日の何時からはこの番組、というのがきちんと決まってるんです。
自分が見るわけではないのに、決まった時間にこの番組とチャンネルを合わせています。変えようとすると猛烈に怒るんです。「テレビ、変えないっ!」すごい剣幕です。
だから、野球中継は滅多に見られない・・(涙)
でもね、今日はいつも見ている19チャンネルで阪神−広島戦があるんです。やったぁ!ラッキー!こりゃ今日は堂々と野球が見られる!と喜んでいたんです。
でも、なぜかいつのまにか「伊東家の食卓」に変ってるじゃありませんか!いつもは私が見たいって言っても変えてくれないんですよ。
断然今日は私が抗議です。「いつも19チャンネル見てるでしょ!」「チャンネル変えない!」←これ、私が言った言葉。
でも、結局だめでした。コマーシャルの隙を縫って見たら阪神が大負けだったので、まぁいいかとそのままになりました。
9時はやっぱり19チャンネルの「開運何でも鑑定団」を見るんですけど、野球のため時間変更のようで、サトは観念したらしく、おとなしく今水筒を洗っています。ああ、よかった。阪神も盛り返してきたし・・・。
ここでハタと気がついたこと。前もって新聞に目を通して、野球をやる事を確認してチャンネルを他に変えたということ。
すごい!こういう能力が私にとってすごくうれしいことなんです。
あとは人の都合もちょっとは聞いてくれたらもっと嬉しいんですけど・・・。
あ、でも例外はあるんです。せんべえさんが「今度遊びに連れて行かないぞ!」と脅すと言うことを聞くんです。せんべえさん、それはやっちゃぁいけないことよ。
サトの春
去年あたりから色気が出て来ました。17歳ですもの、当然ですね。
電車に乗るとほっぺたにチューをしに来ます。もちろん、拒絶!「外でみっともないことをしてはいけません。」
「みっともない」の意味はわからないだろうから、外でやってはダメということを理解させるために厳しく制止します。
じゃぁ、家の中ならさせるのか?というと・・・させます。
もっとも、家の中ですることは滅多にないんです。私からしようとするとかえって避けられたりもします。
それでもたまぁにソファに座っている時にほっぺたをくっつけに来ます。これは親子の愛情表現と受け取っています。
電車の中でひんぱんにしてくるのは、もしかしたらカップルがしているのを見てインプットされたのかもしれません。
この間、京都からの帰りに座れたものだから、隙あらば狙ってきてちょっと困りました。
もうひとつ。
ふと思い立つと、私の二の腕をモミモミしに来るんです。
中年女性の二の腕は柔らかいんですよ。ふくよかな人ほど触って気持ち良いようですが、残念なことに私は上半身痩せ型なんですよね。サトは少しモミモミして、終わります。
思うに、学校の先生方にふくよかな方がいらっしゃる。そこで覚えたに違いない・・・ごめんなさい!
この先、恋愛感情は持つんでしょうか?ちょっと難しいような気はするけど、異性に対する好意はしっかり育ちそうな気がします。
今は母親の私や先生に対してなので、恋愛感情ではなさそうですけど、それでも女性に限るわけだし、しっかり異性は理解しているのではないかしら?
あ、例外がありました。せんべえさんです。彼はサトにチューを強要するんです。いくら私にしてもらえないからって、17の男にそんなことさせるなよぉ!せんべえさんはまだまだサトを子ども扱いで困ります。
どうぞ、この先、誰彼となくチューをしに、なんてことになりませんように! 私たちがしっかりと教える必要があります。